IDOL STORY.0-4


橘紫織


「わたくしは、トップアイドルになります。」


 自己紹介を、と聞いてみると開口一番に刀のような彼女はそう言い放った。


「趣味は鍛練。得意科目は古典。苦手な教科はありません。」

「そ、そうですか。趣味の鍛練...というのは?」

「特定のものの鍛練ではございません。わたくし自身の力が及ばないと感じたものは、空いた時間に鍛練しております。」



それは趣味なのかどうかはさておき、やはり真面目な生徒のようだった。
恐らく育ちもいいのだろう。
彼女の淡々とした言い方と謎の圧に押されつつ、男性は次の質問をする。


「なるほど。では、何故アイドルになりたいのでしょうか?」

「...なると決めたからです。」

「...?ど、どうしてなると決めたのですか...?」


いまいち要領を得ない彼女の答えに違和感を覚え、さらに質問を重ねていく。


「.........。家業を次げと父から言われ、自分のことは自分で決めたいと思い、家業とは正反対の職業を選びました。」


迷った末に正直に話すことに決めたらしい彼女は、苦虫を噛んだような顔をしていた。

その表情からは、正直すぎた...というような後悔も見てとれる。


「わかり、ました。明日1日、学園での橘さんを見学して決めようと思います。」

「...!はい。よろしくお願い致します。」


やはり何故アイドルになりたいのか、そして彼女から発せられるこのただならぬ雰囲気の根源は何なのか。

それが気になってしまった男性であった。


 翌日普通科3年生の教室を訪れた男性は、感嘆の声をあげた。

というのも紫織はクラスメイトほぼ全員、どころか学年の大多数から尊敬の眼差しで見られているようだったのだ。


「橘さん、本当にすごいよね...なんでそんなに頭がいいの?」

「わたくしは凄くありません。日々鍛練。勉強のコツさえ掴めば貴女もすぐにできるようになるでしょう。」

「あー!橘さん私にも勉強教えてー!」


成績はトップ。勉強だけではどうにもならないであろう体育まで好成績を納めていた。

秘訣はなんなのかと本人に聞くと


「幼い頃から父と運動に励んでいました。」

「お父様はスポーツがお好きなのですか?」

「.........剣道道場の、当主をしています。」



...なるほど、家業とは剣道の道場でしたか。

納得した男性は気になっていたことを質問した。


「アイドルになりたいのは何故ですか?」

「ですから、家業を...」

「それだけですか?」

「............」



急に押し黙り、静止する紫織。
暫くして静かに口を開いた。


「...私も、可愛い服...とか。踊り、とか...着たり、踊ったり、してみたいと。思ったので。」


歯切れの悪く素っ気ない言葉だったが、伝わるには十分だった。


「...!幼い頃にそ、そういう服を着ることが許されていなかったので、少し憧れているというだけです!」

「確かにアイドルになれれば、そのような服はたくさん着ることができますね。」


慌てて弁明する紫織に、男性は微笑みながら伝えた。

すると、彼女から予想とは少し外れた答えが返ってきた。


「いえ、そういう服が着たいからアイドルになりたいのではありません。その思いがきっかけではありましたけれど。アイドルになったとしてもそういう服を着て、目的が達成できるとは思っていません。」

「...?では...目的、とは?」

「最初に申し上げました通り、『トップアイドル』です。」



即答した彼女の全身から、あの強い気の様なものを感じた。



「自分の将来を自分で決めるため、幼い頃に憧れた職業を自分で選びました。選んだからには、目指すはトップ。頂点です。」


その時、彼女の強さが理解できた気がした。

彼女自身の意思の強さ。
きっとこの強さが、皆を頂きへと導いてくれるのだろう。


そして何より、男性には見えたのだ。

彼女と共に一本の道を突き進む、生徒達の姿が。

橘紫織▷スカウト編fin.

Story text→にゃごる @nyago_runrun

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