IDOL STORY.0-4


橘紫織



やはりこの学園は不思議なところですね。

 そう思いながら書類を片手に歩くこの男性は、夢実ヶ丘学園に新たに設立されるアイドル育成科のプロデューサーだ。


新設されるということで生徒を募らねばならないのだが、この学科では試験で生徒を選ぶのではなく、この男性によるスカウトとオーディション審査で生徒が決まる。

今日は夢実ヶ丘学園の空き教室を借りてオーディションを行う予定だ。
数名の生徒が既にエントリーシートをこちらに提出してくれている。



 話は脱線するが、男性が何故この学園を不思議に思うかを説明しようと思う。

まず、今日のオーディションのために借りた空き教室。
普段は会議室としても使われているらしいこの教室は中庭に面している部屋で、そちら側の壁は一面ガラス窓になっている。
中庭の木に光が当たり、その光はキラキラとこの教室に入ってきていた。

使われることの少ない部屋だと聞いたのだが、立地、間取り共に素晴らしい。
何故空き教室という扱いを受けているのだろうか。



そして何よりこの『アイドル育成科』である。



夢実ヶ丘学園は全国で名の知れた歴史ある進学校であり、通う生徒も気品溢れる生徒ばかり。
どちらかといえば真面目でお堅い学園というのが世間のイメージであるはずが、急に『アイドルを育てます!』となれば、マスコミも騒いで当然だった。

そのマスコミの反応に対して、やはり『アイドルになるために編入する』という決心のつく生徒はあまりいないらしく、応募は少なく思えた。

故に今日はとても貴重なオーディションなのだ。



 オーディション会場となる空き教室に到着し、男性は椅子に腰かける。
ほどなくしてノックが響いた。


「失礼致します。」


予定時刻ぴったりに入ってきた彼女は、見るからに真面目な生徒。
女子生徒としては身長が高いほうなのだろう。そうでなくとも背筋の伸びたスッキリとした立ち振舞いのおかげで170cm近くあるように思えた。

そしてなにより、その制服は...


「アイドル育成科の選考面接を受けに来ました。私立夢実ヶ丘学園普通科三年生、橘紫織と申します。」


由緒正しく歴史ある、夢実ヶ丘学園のものだった。


プロローグ0.4『一本の道筋』


夢実ヶ丘学園アイドル育成科

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