IDOL STORY.0-3
笠松青葉
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廊下でポカンと呆けた顔をしている一人の男性は、床に落ちた眼鏡を拾い上げる。
落ち着いた雰囲気を醸し出す赤茶色のフレームに、恐らく度の入っていないレンズ。伊達とはいえ持ち主の少女に返さなければならない。
それに、あの瞳は...
授業が終わり、鐘の音と共に生徒達は教室に戻り始めていた。
その様子を廊下の影から眺める。
眼鏡の少女の普段の姿をこの目で見なければいけないと男性は感じていたのだ。
「...すみません。少し伺ってもいいですか?」
「え...はぁ。いいですけどぉ~?」
少女のクラスメイトの女生徒に声をかけた男性は、普段の少女について質問していく。
男性が質問するためスカウトマンだと名乗ると、何故か黄色い歓声があがった。
「普段の『地味子』について?(笑)」
「いや、話すことなくねw」
「あの子、いっつも教室の隅っこにいるんですよぉ~」
...どうやら、あまりクラスの中心人物というわけでもないようだ。
名前は笠松青葉というらしい。
お礼を言い、男性はその場を離れたのだった。
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「災難すぎる...」
ボソボソと呟くしかなかった。
今日は人にたくさんぶつかるし、何より眼鏡をなくしてしまった。
日差しが眩しく照りつけ、一気に騒がしくなる教室。
やっと嫌いな嫌いなお昼ご飯の時間のようだ。
「笠松さん?これ、よければ職員室までお願いできる?」
「あ...あの...はい...」
内心私は少しだけ喜んだ。
一人で過ごすお昼休みより、先生に頼まれた仕事をこなす忙しい時間のほうが好きだ。
なんてことない書類だが、ゆっくり運ぼう。
さて、この道はお昼は誰も通らないから...
「...って...ぇ!?」
「あぁ!今朝の生徒さんですね?こんにちは。」
誰もいないはずの廊下には、今朝運命的()な出会いをした例の男性がたたずんでいた。
優しそうな笑顔ももれなく浮かべている。
「...そうでした!先程はすみませんでした。こちらを落としていかれたので拾っておきました。」
「...あ。」
眼鏡!私は思わずひったくるように男性から眼鏡を返してもらった。装着。よしこれで落ち着く。
「あ、あの...あ...」
「―そして、ひとつ青葉さんにご提案が。アイドル、やってみませんか?」
「...??????」
なんとか感謝を述べようとしていた私に飛び込んできた謎の言葉。どういう...?
「あ、あのすいません...仰ってる意味がよくわかりません...私は先生に頼まれた仕事があるので...も、もういかなきゃ...」
「なりたい自分になれます。」
...!
「きっと力になれると思っています。お手伝いをさせていただけませんか?」
ニッコリと微笑む男性が、日差しのせいかとても眩しく見えた。
あれ、というか...今日ってこんなに...明るかったっけ...?
気がつくと、今朝と同じように書類が散乱している。拾わなきゃ。でも、今はあまり気にならない。
何故かって?
―それは、きっと...
笠松青葉▷スカウト編fin.
Story text→にゃごる @nyago_runrun
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