IDOL STORY.0-1


―プロローグ―

野々崎あかり



「朝礼ビックリだったね!アイドルのスカウトだって〜!私たちの学校からアイドルが誕生するかもなんでしょ?!」

「そう、そのとぉーーーーりっ!」


突然大きな声を出す千秋。
興奮気味に話していたあかりは引き気味で驚いた。


「えっ、なに、テンション高いね…?」

「そりゃそうよ…だってこの学校から伝説のアイドルが誕生するのだから!」

「え、もう決まってるの?だれだれ?!」

「ふっふっふ…決まってるわ!その名も、桑野千秋よ!!!」

「—————はい?」


驚きのあまりに声を発するのが遅れてしまうあかり。
そんな彼女に千秋は迫った。


「はい?じゃない!私!アイドルになりたいの!わかる?!」

「お、おぉ!!わかる、わかるよ!千秋ちゃん可愛いもんねー」

「フッ、そうなのよ!あたしって可愛いじゃん?絶対にあのスカウトマンを取っ捕まえてあたしの魅力でメロメロにしてやるんだから!」


ガッツポーズをして気合いを入れる千秋にあかりは同調するように頷いた。


「わぁステキ!応援するよ…!だから、未来のアイドルさん、サイン書いて〜〜!」

「よろしい。」

「やったぁ〜!ついでに今日の加藤先生の課題も見せて欲しいなぁ~?」


語尾にハートマークがつきそうなほど声を甘くするあかり。
それに対して似た声で千秋は返す。


「んもう、商売上手なんだから!てか、加藤先生のはともかく進路希望調査は?書いたの?」

「へっ?なにそれ?」

それまでの猫なで声とは思えない腑抜けた声を発するあかり。
それに答えるように肩に手を乗せ千秋は言った。


「夏休みに書いて、今日提出だぞ」


「んん〜〜……むむぅ…………」

「え、まだ書いてなかったの?もう放課後だぞ〜?」

「だって〜!将来の夢とかわかんないんだもん〜」


机に上体を伏せてブーブーと文句を言うあかりに対して千秋はなぜか満足そうに笑う。


「うんうん、それも青春ね〜大いに悩みたまえ!そして私は部活の助っ人に行って参る。そしてスカウトマンを見つけるのだ!」

「うー!この裏切り者ー!!」

「ちゃんと書いてないあかりが悪いんだよーっだ!んじゃ、また後でね〜」

「んー。頑張ってねー……………はぁ」


机に伏せていた身体を上げ窓の外を眺めるあかり。
外では部活中の生徒が賑やかに聞こえた。
千秋ももう少ししたらあの中に入るのだろう。


 空には紺と橙のグラデーションがかかっていて、その憂えげな横顔を照らしていた。
橙の光と陰のコントラストは、彼女の心を表しているのかもしれない。



「…私の夢って、なんなのかな。」



彼女にしては珍しく静かで、落ち着いていて、沈んだ声だった。

 相変わらず窓の外では部活動を行う生徒の声が賑やかに響いている。
そんな中、あかりを廊下から見つめる1人の男がいた。

もちろん、窓の外に気を取られているあかりは気づかない。
男はあかりへと近づき、彼女へと声をかけた。


「悩み事ですか?」

「うょ?!ど、どなたですか?!」


びくりと肩を跳ねさせ、振り向くあかり。



「あ、驚かせてすみません。私、夢実ヶ丘学園アイドル育成科のプロデューサーです。放課後の教室に1人のあなたが気になりましたもので、つい…」



職業柄なのか、名刺を差し出す男。
どうも、と小さくこぼしてあかりはそれを受け取った。


「アイドル育成科…あっ、あなたが千秋ちゃんのスカウトマン?!」

「千秋さん…?のスカウトマンではないのですが………進路について悩んでいるのですか?」


男が苦笑いをしながら下に目を向けると「進路希望調査」と書かれた紙に目が止まる。


「え、あ、はい…将来の夢とか言われてもよくわからないぜー!って感じで…色々な職業を見てもピンとくるものがなくて……あーもう!今日までなのにどうしよう〜!!」


驚いたり悲しんだり、かと思えば焦って急に大声を出したり。
コロコロと表情を変えるあかりに男はずいと迫って真剣な表情で言う。


「あの、良ければなんですが…。アイドルに、なって見ませんか?」

「———へっ?」







これから始まるのは、少女たちの汗と涙と、そして希望の物語。夢に向かうひたむきな少女たちの、輝く物語である。

野々崎あかり▷スカウト編fin.


Story text→のんのん @kurotenkawai

夢実ヶ丘学園アイドル育成科

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