IDOL STORY.0-2


桑野千秋


「あの、良ければなんですが…。アイドルに、なってみませんか?」

「———へっ?」


ずっと探していた人と、その人の前で呆けた顔を晒す友人と遭遇したのは忘れ物を取りに教室に戻ったからであったと少女——千秋は思う。

これが一世一代の告白シーンなら空気を読んで出直すこともできたであろう。
しかし遭遇したシーンは少女が自分の身に起きて欲しいと求めていたもの。ゆえに何事もなかったかのように去ることは出来なかった。


千秋は大きな音を立てながらドアを開け、2人の間に入り込んだ


「ちょーっと待ったー!!!!」

「うわっ?!ち、千秋ちゃん?!」


プロローグ0.2『自分で掴むチャンス』




「あれ、千秋ちゃん助っ人は…?」

「忘れ物を取りに来たの!そしたら!あかりが!!スカウトされてるじゃん!酷いよ〜私だってスカウトマンさんずっと探してたのに〜!!」

「な、なんかごめんね…?」

「いや、いいの…いいのよ…ッ!でもでも、あたしもアイドルになりたい〜!!!」

「あ、あの…そちらの方は…?」


千秋とあかりが盛り上がる中、恐る恐る声をかける男性。
どうやら千秋の突然の登場に驚いているようである。

「あっ、あたしは桑野千秋ですっ!座右の銘は『努力は必ず報われる!』!可愛いアイドル目指してますッ!!!!!是非!私を!アイドルに!!!!!!」

「そう、みたいですね。君はどうしてアイドルになりたいんですか?」

「もちろん、最強に可愛くなりたいからです!!!!」


それが当然であるかのように胸を張って答える千秋。
しかしそれは彼女の小さい頃からの夢であった。
可愛くなりたいと願っていた幼い彼女の瞳に、画面越しに輝くアイドルはそれはそれは可愛くうつったのだ。

自分の笑顔で、声で、動きで人を笑顔にする
それこそが彼女の言う「最強に可愛い」であった。


その返答にも驚いて固まっている男性に、あかりは声をかけた。

「あ、あのっ!スカウトマンさん!千秋ちゃんはすっごくかわいくて、歌もダンスもすっごくて、皆からもすっごく愛されてて、私のこともいつも助けてくれるし、えっと、それから...」

「あ、あかり〜!!!!」

魅力を伝えようと早口で元気に話すあかりに、千秋は涙ぐみながら抱きついていた。
その様子はこれまでのお互いの信頼を表しているかのようであった。


「うん、じゃあ明日1日、君を観察してみます。本当にアイドルになれるか、しっかり見極めますから」

「…っ!!ありがとうございます!!お願いします!!!!」



こうして、千秋のアイドルへの道は作られ始めた。

夢実ヶ丘学園アイドル育成科

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