IDOL STORY.0-2


桑野千秋



 翌日の早朝、アイドルのスカウトをしている男性は学園のグラウンドに来ていた。
千秋は朝の部活の練習に顔を出していると聞き、観察をしに来たのだ。

正式に部活に入っているわけではなく人数不足の時の助っ人要員らしいのだが、常日頃から体を整えておかないといけないと千秋は言った。
こう言う発言からも人格がわかるため男性は積極的に彼女と話をした。


「おーい、ラスト一周がんばるよ〜!!!私に勝てたらジュース奢ってあげる!」

『…はいッ!』


そんな彼女はなにをしているかと言うと、1年生とともにグラウンドを走っている。
先頭きって汗を流すその姿は男性の目に輝いてうつった。
共に汗を流すだけでなく士気を上げ、仲間を勇気付ける姿に見覚えがあるのだ。

これもきっとアイドルにあるべき素質の1つである。

あの練習が終わり、教室へと戻っていく生徒たち。
男性もそれに倣い、授業が行われる校舎へと入っていった。


それからいつもと同じ授業の風景が広がる。
シーンとした教室も、休み時間になれば生徒たちの賑やかな声が聞こえる。

スカウトマンの男性色々なところを見て回りながら、千秋の観察をしていた。
授業中は真面目に取り組み、休み時間には沢山の生徒と会話をする。

色々な人から慕われているのが目に見てわかる。

誰といても爽やかな笑顔を浮かべているが、あかりといる時はその笑顔に安堵が見て取れた。


「でね、その時藤田がさ〜」

「ふふ、千秋ちゃんの話はいつ聞いても面白いね」

「そんな褒めても感謝しか出ないぞ〜!」

「感謝は出るじゃん!」


2人で会話をしている時は自然な笑顔で、しがらみを感じない。
いつもの笑顔にしがらみがあるのではなく、本当に素直に心から出た笑顔なのだ。

これがステージ上でも出せるとしたら、この2人は確実に素敵なアイドルになれるかも知れないと、男性も感じていた。


確かにあかりの言う通り、千秋はアイドルなのだ。
そしてあかりもきっと、これから素敵なアイドルになれる。
お互いの良さを生かして前に進んでいける、素敵なアイドルになれる。


笑顔の2人を見ながらそう思った。


 授業も部活も終わり、空の橙は薄紫へと変わる時であった。

男は教師へと挨拶を済ませて帰るところ、体育館の明かりが付いているにを発見した。
今日はこの後予定がないので、好奇心ついでに見ていくことにした。


そっと中に入るとステージに音楽プレーヤーが載っており、その前で少女が一所懸命に踊っていた。
音楽に合わせてステップを踏み、腕を羽ばたかせ、汗を流していた。

その動きは初めての物ではなく、いつも練習していなければ身につかないものであった。
ここに至るまでの努力や流した汗が手に取るようにわかる。


「はぁっ、はぁっ…もう一回…ッ!」


息を切らしながら何度も何度も繰り返すその姿に、傾きかけていた心が完全に彼女に向いた。

彼女は絶対、いいアイドルになれる。


男は確信して体育館を去った。

翌日、あかりと千秋は正式にスカウトされ、アイドルへの道を歩き出した。



これはこれからの物語の、始まりのうちの1つでしかなかった。

桑野千秋▷スカウト編fin.

Story text→のんのん @kurotenkawai

夢実ヶ丘学園アイドル育成科

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