IDOL STORY,0-5


姫城くるみ




「B組の姫城さん」

「いっつも窓際の席で」

「近づくとなんかボソボソ喋ってる」


とのことだった。
あぁ、あの子かと思い出す。
確かに各教室を回ってる際に目を引いた子だ。


整った容姿に儚げな印象。
窓の外を見つめ頬杖を付くその姿は、確かに囚われのプリンセスのようだった。

その不思議な雰囲気と名前から、『プリンセスちゃん』と呼ばれており、有名なようだ。



「すみません。姫城くるみさん、ですか?」

「...はい、なんでしょうか。」


こちらを向いて静かに答えてくれたが、瞳の奥は遠くを見据えたまま。
一体何を見ているのだろう。


「私は、アイドルのスカウトに来た者です。」

「...」

「クラスの方から、あなたの話を聞きまして...」

「...」


同じ沈黙だが、明らかに違う沈黙だった。

最初は興味を示してくれたが、クラスメイトの話をするとすぐにまた遠くを見つめたようだった。


「アイドルに、興味はありませんか?」

「...アイドルには。興味、ない...。」



には?



 アイドル『には』興味を示していないらしい彼女。では一体... 


「何に興味があるのですか?」

「...教えてあげません。」


すぐにシャッターが降りてしまった。ふむ。


「...ご趣味は何ですか?」

「本を、読むこと...」

「本!どのような本を...」

「教えてあげません...」


とても難しい子のようだった。

しかし、彼女のもつ独特のオーラに惹かれた男性は更に踏み込むことにした。


「先程、ご挨拶する前に何か呟かれていましたよね...?何を呟かれていたのですか?」


「...............くるみは、お姫様なの」


あまりに男性がしつこいからか、少女はやっとこちらに目を合わせて喋り始めた。


「お姫様だから小鳥さんとお話ししてたの。あの小鳥さんはくるみの大切なお友達。」


少しだけ早口でか細く喋る彼女に男性は驚いた。

すると今度は声を大きくしてこう語ったのだった。


「...!!!やっぱり、誰も...わかってくれない...っ!メッ!メルヘンが好きで!なにかっ、いけないですか...?!」


急な大声のせいか、クラスメイトたちはこちらに注目せざるを得なかった。
視線が痛かったのか、くるみは顔を赤くして静まりかえる。


「...いけなくなんてないですよ?とても素敵なことだと思います。」

「...!」


初めてくるみの目が輝く。
しかし。


「...アイドルには。興味、ない。アイドルになりたいわけじゃない...」

「では何になりたいのですか?」

「...お姫様」



恥ずかしそうにそう答えた。


そこで、男性は何故か夢実ヶ丘学園の理事長から言われた言葉を思い出していた。

何故アイドル育成科を創ったのか。どういう生徒を育てたいか。


答えは既に出ていた。



「なりましょう。お姫様。」

「...え」

「アイドルになることが目的じゃなくてもいいんです。お姫様になりたいのですね?」

「う、うん...くるみは、お姫様になりたくて...ずっと待ってるの...」



「では私は、くるみさんのお姫様になりたい...という夢を叶えるためにやってきた、馬車の御者...というのはどうでしょう?」

「............!」



くるみの瞳が、よりいっそう輝いた。
両手はきゅっと結ばれ、胸の前に置かれている。



「あなたは...くるみの使用人などではなく...
あなたが、くるみの...?」


またポソッと何かを呟いたが、それが男性の耳に入ることはなかった。





―こうしてくるみ姫はたくさんのものを得ることになるのでした

―くるみ姫が目覚め、何を思うか
―それはまだ、先のおはなし




姫城くるみ▷スカウト編fin.


Story text→にゃごる @nyago_runrun 

夢実ヶ丘学園アイドル育成科

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